最も基本的な化学反応の一つである水素移動の機構を解明することは、反応全体の機構を解明する上で非常に重要です。特に加水分解や脱水素反応などの酵素反応ではプロトンの授受が重要なプロセスであり、現在までに様々な手法で研究がなされています。しかし、真に反応過程を観察するためには反応をその場で観察する測定が必要不可欠です。立体構造を直接観察できるX線結晶構造解析では、電子を一つしか持たない水素の十分な情報が得られません。そこで、当研究室では、同位体を明確に識別でき、三次元的に精確に観察できる「中性子結晶構造解析」に注目し、反応前後や途中過程における水素原子の位置や熱的挙動を精密に決めることで反応機構の解明を試みるというアプローチをとっています。例えば、反応によってキラルメチレン-C*HD-が生成する場合は、絶対配置まで含めて水素と重水素を決定することが可能なので、重水素がどこから移動してきたかがわかります。このような研究は、その実験的困難さも伴って世界的にもほとんど例がありませんが、それまで静的な構造の同定が主だった単結晶中性子回折の存在意義を大きく高めることが可能であり、インパクトが大きいものです。
また、当研究室では、国内最大の中性子実験施設であるJ-PARC物質・生命科学実験施設に建設された単結晶中性子回折装置iBIXの研究開発、機器制御・測定・データ解析ソフトウェアの開発も行っています。
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